

江戸時代の後半(18世紀後半~19世紀)には庶民の間でも正月料理をおせちというようになりましたが、現在の正式なおせちとされるお重詰めの形が定まったのは意外にも昭和初期です。江戸時代に重箱が一般家庭に普及しましたが、メイン料理である本膳が控えていたため、重箱には祝い肴(ざかな)を中心に入れられてました。
昭和初期に試行錯誤を重ね、祝い肴、口取り、煮物、焼き物、酢の物を詰める現在の形になりました。大正期には内容が定まらず、「刺し身の重」や「吸い物の重」もありました。吸い物はつゆがないと完結せず、刺し身はそのままでは日持ちがせず扱いに手間がかかるなどの理由でなくなったと考えられているます。
鮭の親子雑煮
出典:株式会社うさぎもち(https://www.usagimochi.co.jp/recipe/recipes/recipe_001/index.php?re_no=6)
お雑煮の中に「サケ、イクラ」を入れると来たら北海道と思いませんでしたか?実は、サケとイクラの「親子雑煮」を食べるのは、新潟県の下越(かえつ)地方や新潟市内です。特徴はイクラは生ではなく、一度湯通します。表面に火が通って乳白色になったイクラは、かむととろっとしていてクリーミーです。しょうゆベースのすまし汁で、新潟の郷土料理のっぺのようにゴボウやニンジン、大根などの野菜のほか、鶏肉など具だくさんの一杯です。
販売されている重詰めおせちの市場規模は2015年には603億円でしたが、2025年には847億円と約200億円アップしました。(市場調査会社の富士経済(東京・中央)による)。家庭で作らずに購入する人が増えているほか、原材料高騰を受けた値上で1個あたりの単価の増加もあり、近年も市場が拡大しています。オードブル形式などもあり、おせちの形態は多様化が進んでいます。
富士経済は2026年は851億円とさらに拡大すると予測しています。

「栗きんとん」は、サツマイモなどで作ったあんを栗の甘露煮に絡める甘くて食べやすく、子どもから大人まで人気の栗きんとんは、「いつも取り合いになる」というご家庭も多いのでは?明治時代以降におせちとして食べられるようになりました。意外と歴史は浅いですね。
金運アップの意味が込められているきんとんは黄金色をしていることから漢字では「金団」と書きます。
栗は古くから縁起物として親しまれてきて、勝負運の意味もあるといいます。その由来は武家の出陣や勝利の祝いに用いられた「勝栗」からと言われています。
あんもち雑煮(あんもちぞうに)
出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/anmochi_zouni_kagawa.html)
あん餅雑煮(餅の中に甘いあんこが入った雑煮)は、香川県のほか、熊本県や大分県、愛媛県などの一部地域で食べられています。
昔は砂糖が貴重だったこともあり、「正月ぐらいは甘いものを食べたい」と、ぜんざいのようなタイプも含め、あんこを使う地域は意外と多いです。
香川県のあん餅雑煮に関しては、香川は江戸時代から和三盆糖(砂糖)の産地の讃岐、阿波に近い地域なので、砂糖が手に入りやすかったこともあります。
香川は白味噌仕立ての雑煮が主流なので、白味噌の塩味と、あんこの甘さが混合した「 甘じょっぱい味」が受け入れられたことも広がった理由の一つと言われます。
熊本県の玉名などではすまし汁に具だくさんのあん餅雑煮を食べるます。味は、お煮しめのようで、甘いあん餅も全く違和感がないです。
福岡県の朝倉地域で食べられている「蒸し雑煮」は、餅と好みの具材に溶き卵とだし汁を加えて蒸します。
蒸し雑煮
出典:蒸し雑煮 写真ギャラリー(https://mushizouni.jp/gallery/)
江戸時代が起源の蒸し雑煮が福岡県の朝倉地域に広まった理由は、長崎警護を担った時期がある朝倉地域の秋月藩が、中国から長崎へ伝わった茶わん蒸しを秋月藩内に広めたことと、殿様が飢饉(ききん)の際に養鶏を推奨し卵が手に入りやすかったことから、後に正月の雑煮と茶わん蒸しが合わさったと考えられています。
食べられていたのは武家屋敷があったあたりのみで、汁タイプの雑煮を食べる家庭もあります。
「田作り(ごまめ)」はカタクチイワシの稚魚を乾燥させ、、炒って砂糖と醤油とみりんで絡め甘辛く味付けした料理です。江戸時代からおせち料理の重箱に詰められていて、関東では数の子、黒豆とともに「祝い肴三種」になってます。
田作りの語源は、昔、農村では冬の農閑期にカタクチイワシを肥料として田んぼにまいていました。そうしたところ大変豊作になり、五万俵もの米が収穫できたという言い伝えや、田植えをする際に祝い肴として食べたことから「田作り」と呼ばれるようになりました。
田の肥料にすると豊作になったという言い伝えから、「五穀豊穣」の象徴として長きにわたって食されています。
別名「五万米(ごまめ)」ともいわますが、これも豊作祈願からつけられています。
たたき牛蒡(ごぼう)は、柔らかく煮たゴボウをたたいて味をしみこみやすくし、ゴマや調味料などをあえた料理で、関西では「数の子」「田作り」と並び「たたきごぼう」が祝い肴三種とされています。ごぼうをたたき、身を開くことから「開運」の意味が込められ、更に、ゴボウは地中に深く根を張ることから、家族や家業が土地に根付いて「安泰に暮らせますように」という意味が込められています。
たたき牛蒡は、中世から正月の肴として食べられていた記録が残っていて、古くから縁起の良い料理として親しまれてきました。

江戸時代から正月、重箱に詰められていた料理は、「黒豆」です。祝い肴に用いられる黒豆は、語呂合わせから、「まめ(勤勉)に働く」や「まめ(健康)に暮らす」の願いを込めて食べられる、古くから用いられる定番の食材です。黒豆は今のように砂糖で煮た甘いものではなく、塩味でした。黒豆が甘い煮方になったのは明治期以降だと考えられています。
徳島県三好市祖谷(いや)地方で作られる「うちがえ雑煮」は、岩豆腐と呼ばれる大きくて硬い豆腐を入れます。
うちがえ雑煮
出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/44_12_tokushima.html)
長方形に切った豆腐を二つ重ね、十文字に重なり合って乗っている様子が、武士が刀を「打ち違え」ているさまに似ているところから、「うちがえ雑煮」と呼ばれるようになりました。大きな豆腐で覆われてほとんど見えませんが、豆腐の下には里芋が3個が入ったいりこだしのすまし汁があります。
祖谷地域は米が育ちにくい地域であったことから、主食は麦やそばであり、昔からタンパク質が豊富に含まれる岩豆腐は栄養源として重宝されていました。
平家の落ち武者伝説がある地域では餅を入れないことが多いといわれてます。

関ケ原付近が境目ですが、例外的にに庄内(山形県)は丸、高知や鹿児島は角餅です。
「節会(せちえ)」の料理を「お節供」といい、のちに正月料理をさすようになりました。
旧暦では日没から新しい日が始まるとの考えがあり、「年取り膳」を食べる風習があります。
年取り膳
出典:北海道農政事務所ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/hokkaido/suishin/shokuiku/toshinose_gyoji.html)
「年取り膳」とは、大晦日の夜に家族で豪華なご馳走を囲み、新しい年神様を迎えるための伝統行事です。
正月におせちを食べるのは、年神様を迎え、新しい一年の幸せや豊作、家族の健康を願うためです。
年神様とは、古来から伝わる元旦に、やってくる新年の幸せをもたらすために、高い山から降りてくる神様で、「正月様」「歳徳神(としとくじん)」とも呼ばれています。
正月料理を食べる際に使う「祝い箸(ばし)」は両端が細く削られた丸みのある形をしており、寿の文字が入った箸袋に包まれています。両端が細いのは、片方を神様用、もう片方を人間用と考え、共に食事をする「神人共食(しんじんきょうしょく)」を表しています。
おせち料理の特徴は、具材の名称に一つ一つに縁起の良い意味の語呂合わせがかけられています。重箱にも「めでたさを重ねる」「福を重ねる」という縁起の良い意味があります。
| 意味 | |
|---|---|
| 栗きんとん | 金運アップ、勝負運上昇 |
| だて巻き | 学業成就 |
| レンコン | 将来の見通しがよくなる |
| エビの焼き物 | 長寿祈願 |
| 数の子 | 子孫繁栄 |
| ブリ | 出世祈願 |
| かまぼこ | 初日の出 |
| 昆布巻き | よろこぶ |
出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2001/spe2_03.html)
お雑煮とは、正月に年神様(歳神様)をお迎えするために、年中行事で年神様(歳神様)に供えた餅などを煮て食べることにより、年神様の恩恵を頂くという意味をもっています。
お雑煮は地産地消の郷土料理として、地場の産物がふんだんに使われ、全国各地で特色があります。家庭料理なので個人差はありますが、入れる具材やだしは地域によって異なります。
例えば奈良県の「大和の雑煮(きな粉餅添え)」は雑煮から餅を取り出し、砂糖入りのきなこを付けて食べるという非常に珍しい食べ方があります。きなこの黄色は米の豊作を願う色といわれ黄金色で豊作を祈願する意味合いがあります。
大和の雑煮(やまとのぞうに)
出典:農林水産省ウェブサイト(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/yamato_no_zouni_nara.html)
熊本県山鹿市(やまがし)の「栗入り納豆雑煮」は、砂糖を加えた納豆に絡めてお餅を食べるスタイルです。お雑煮にスルメのだしを使うため、塩味もあり、お酒にも合います。西日本一の栗の産地でもある山鹿市のため、栗がまるごと入っています。「やりくり上手」を願う意味がある縁起物です。
栗入り納豆雑煮
出典:山鹿温泉観光協会(https://www.y-kankoukyoukai.com/info/?p=1788)
*上記のサイトの内容を大幅に書き直した文章にしました。